2010年02月11日
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オルランドと最年少軍人

Written By: 遠野秋彦連絡先

 祖国防衛戦争(オーバーキル・ウォー)において、人工惑星が果たした役割は、もちろん第2の地球である。そこには、多くの民間人も居住し、軍人の家族として妻や子供も住んでいた。

 最終的に人工惑星が地球に帰還して、殺戮者として糾弾されたとき、地球への受け入れが素直に認められなかった者達、すなわち正規の軍人でしかも女子供でない者達だけが人工惑星に残ったわけである。もちろん、彼らが拒絶されたわけではなく、戦争犯罪者として裁かれることを受け入れれば戻れたし、実際に戻った軍人もいるという。しかし、人工惑星の多くの軍人は女子供や民間人を安全な地球に送ると、自分たちは戦争犯罪者扱いされることを潔しとせず、帰還しなかったわけである。

 従って、人工惑星に残る、残らないという判断は極めて恣意的かつ独善的な決断の連鎖に委ねられており、異常事態の連続という急展開が終わって一息ついてみれば驚くほどいびつな人口構成だけが残ったわけである。つまり、一定以上の年齢の男だけが残ったわけである。

 それに加え、子供ができない不死性が加わったことにより、事態は予想もしなかった状況に陥ることになる。

 通常、軍人は序列を付けねばならない。上下関係を明確にしなければ、誰に指揮権があるか分からないからだ。

 そして、軍人は功績があれば昇進し、定年で除隊し、毎年新人が入隊してくることで、おおむね同じような人数構成を保っていた。ところが、誰も除隊しないし、新人の入隊もなくなったのに、昇進はあり得るのだ。つまり、いちばんの下っ端は、いくら昇進しても下っ端のままである可能性が高いのだ。

 そのことに最初に気付いたのは、オルランドの最年少軍人だった。本来ならまだ少年であり、協定で安全に地球に戻れたはずなのだ。しかし、勇気を振り絞り、これこそが英雄になるための道と信じ、年齢を詐称して人工惑星に居座ったのだ。

 もちろん、彼の昇進の道が絶たれたわけではない。むしろ、彼は異例の速度で昇進した。しかし、当初、彼は昇進を喜んだが、すぐに何かおかしいと気付いた。何しろ、昇進しても部下ができるわけではないし、部隊内で最年少の可愛い下っ端である事実にはいささかの変化も無かったからだ。

 そして、このままいくら頑張ってたとえ将軍にまで上り詰めてもずっと「可愛い最年少軍人」である事実に代わりがないと気付いたのである。

 彼は、確かに最年少で可愛かったが、精神は戦闘的であり、あえて人工惑星に残留する主体性も発揮できたわけである。

 そこで、こともあろうに彼はオルランド皇帝への直訴に踏み切ったが、時代はまさに銀河三重衝突事件のバタバタした状況であり、矛盾は重大事件の前に放置された。

 オルランドのシャッフリング制度は、この問題に対処するために制定されたものだが、それは更に時代が下ることになる。

 このシャッフリング制度とは、配属部署や、部下と指揮官の関係などをランダムに入れ替える制度である。指揮官であることに飽きた軍人に下っ端を経験させて、新鮮さを取り戻す等の効能も期待されているが、やはり切っ掛けは「万年下っ端」を宿命づけられた最年少軍人の救済にあったのであろう。

 最年少軍人は何回かのシャッフルの後、ついに最強艦である100Kクラス戦艦ロディニアの艦長に指名されたのだ。

 彼は意気揚々とロディニアに乗り込んだ。

 何しろ、100Kクラス戦艦といえば、戦艦部分だけも全長70km。都市部が直径約30km。部下の数も半端ではない。これを超える役職は、人工惑星を直率するオルランド皇帝しかないが、これはシャッフリングで選ばれても辞退するのが通例だった。つまり、これこそが実質的に最強の役職であった。2Kクラスでは1門しか存在しない恒星破壊砲がずらりと並び、しかも連射もできる最強の戦闘力に彼は満足して見上げた。

 自分の祖父ほどの年齢差がある年上を部下として使うことはやはり抵抗があったが、こいつを指揮して戦えるなら問題ないと思えた。

 ところが、いざ乗り込んで部下から説明を受けると青くなった。

 「100Kクラス戦艦は、人工惑星の外郭防衛網も担っているので、まずたいていは出動の命令が出ません。最近は兵器の性能も上がっているので、出動する前に決着が付いてしまうとも言えますが」

 「じゃあ、この最強戦艦の仕事は? いや、艦長のオレの仕事は?」

 「本艦の任務は、とりあえずそこにあって、人工惑星に奥深くにいる弱虫どもに安心感を与えてあげることです。艦長の任務は毎晩のように開催されるパーティーに綺麗な格好で出席してスピーチして、貴婦人役のハイプとダンスを踊ってみせることです」

 「は? 戦って栄光の勝利を掴むことは?」

 「まあ、艦長の任期のうちに戦闘に巻き込まれる可能性はほどんとないでしょう。というか、艦長が10回変わるうちに1回でも戦うチャンスがあれば良い方でしょうけどね」

 彼は、ダンスやスピーチも上手い名艦長としてロディニアの歴史に名を刻んだ。可愛いから女装して女役でもやるのだろうか、という陰口も聞かれたが、男らしい態度でダンスをリードしてきっぱりと陰口を封じて見せた。むしろ、その男らしさに惚れ込む者達も多かった。そして発揮される統率力も評価が高かった。しかし、それが本当に彼にとって幸せだったのかは分からない。

 ちなみに、次のシャッフルで彼は最下級の降下突撃兵となって、敵に肉弾戦を仕掛ける立場となったが、部隊で一番射撃が上手で、好戦的な性格のムードーメーカーでもあり、実に生き生きと任務をこなしていたという。

(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)

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